浦和地方裁判所 事件番号不詳 判決
本籍並びに住居
埼玉縣南埼玉郡春日部大字粕壁六千二十三番地
無職
日向和夫
当三十八年
本籍並びに住居
熊谷市佐谷田三百四十一番地
会社員
鈴木政太
当三十八年
本籍
東京都世田ケ谷区深沢町一丁目五番地
住居
埼玉縣南埼玉郡越ケ谷町百三十番地
熊沢機械株式会社社宅
全日本機器労働組合埼玉支部書記
藤田俊次
当四十四年
本籍
茨城縣那珂郡山隆鄕村大字鷲子三千三百六十九番地
住居
埼玉縣北足立郡戸田町下戸田喜沢
石産金属工業株式会社社宅
化学技術者
川野義雄
当二十九年
本籍並びに住居
埼玉縣北足立郡大石村大字辨財百四十七番地
工員
加藤米三郞
当二十五年
本籍並に住居
埼玉縣北足立郡上平村大字上九百三十三番地
工員
〓見昭一
当二十一年
右被告人六名に対する各傷害、暴力行爲等処罰に関する法律違反被告事件につき、昭和二十二年五月二十六日浦和地方裁判所が言渡した各有罪の判決に対し、各被告人から、及び被告人川野義雄、同加藤米三郞、同〓見昭一の三名を対手人として原審檢事から、それぞれ適法な控訴の申立があり、且檢事から被告人鈴木政太、同藤田俊次の両名に対し適法な附帯控訴の申立があつたので、当裁判所は、檢事中條義英関與の上更に審理をして、次の通り判決する。
主文
被告人日向和夫を懲役十月に、被告人鈴木政太を懲役八月に、被告人藤田俊次、同川野義雄の両名を各罰金五百円に、被告人加藤米三郞を罰金三百円に処する。被告人藤田俊次、同川野義雄、同加藤米三郎の三名が、右各罰金を完納することが出來ないときは、いずれも金二十円を一日に換算した期間、当該被告人を労役場に留置する。訴訟費用中、証人梅村光太郞に支給した分は被告人日向和夫、同藤田俊次両名の負担とし、証人金井深に支給した分は被告人鈴木政太の証人小屋忠行同宇賀神晃の両名に支給した分は被告人川野義雄の、証人小暮淳一に支給した分は被告人加藤米三郞の各負担とする。被告人〓見昭一は無罪。
理由
埼玉縣北足立郡上尾町大字柏座五百八十六番地所在東洋時計株式会社上尾工場從業員組合においては、昭和二十一年十月二十四日頃から、從業員の賃金値上の即時断行を会社側に要求すべきであるとの議が起きたのであるが、一部の組合員等は、会社の経理状態が今その賃金値上を許さぬ事情にあるから、先ず從業員側において増産の実を挙げ、然る後会社側に対して賃金値上の要求を提出すべきであると主張して、これに反対し、遂に、從業員組合から分裂して再建同志会という第二組合を結成し同年十一月三日頃から、同町大字上屋村六十八番地所在遍照院の本堂及び藥師堂を借受け、これを仮事務所として同志獲得の爲めの宣傳活動を開始した。そこで、從業員組合側においては、再建同志会を解散せしむべく努めたのであるが、同月五日に至り、再建同志会の宣傳活動が益々活溌となつたので從業員組合側は、これに対抗する爲め、同日同町内において從業員組合員及び外郭應援團体員等数百名の参加した示威行進を実施し、その機会に、再建同志会側との間に街頭において、立会演説を行わんと欲し、その申入を試みたが、再建同志会側がこれに應じなかつたので、右示威行進に参加した数百名の一團は、その行進の途中同日午後三時頃、スクラムを組み喊声を挙げ、貨物自動車一台を擁して前記遍照院に押掛け、忽ち前記藥師堂を包囲し、その一部の者は右藥師堂内に土足のまゝ乱入し多衆共同の上、藥師堂の内外において、再建同志会員たる梅村光太郞、金井深、小屋忠行、宇賀神晃、小暮淳一外十数名の者に対し、その身体を殴打し又は蹴飛ばし、或はその手足を捉えて引摺り倒し、或は前記貨物自動車の荷台上に投込む等の暴行を加えた上、同人等を右貨物自動車に積載して前記上尾工場に引揚げ(梅村光太郞は途中で逃走した)次で金井深等を同町大字柏座六百三十七番地所在東洋時計株式会社上尾工場女子寮の食堂に連行し、同人等をして該食堂の一隅に設置された壇上に上らしめ、從業員組合側に属する大衆数百名の面前において、同日午後五時頃から翌朝に至るまで、夜を徹し、順次同人等の所信を詰問する等の所爲に出でて同人等の帰宅の自由すら許さなかつたが以上の如く、昭和二十一年十一月五、六の両日に亘つて東洋時計株式会社上尾工場從業員組合側が行動した際、同組合側に属する被告人日向和夫、同鈴木政太、同藤田俊次、同川野義雄、同加藤米三郞等は、いずれも右從業員組合側の應援に赴き、それぞれ從業員組合側の爲めに主動者の一員として活躍したものであるがその際、
第一、被告人日向和夫は、前記藥師堂における暴行事件の際同所において、從業員組合側に属する外数名の者と共に前記梅村光太郞に対し多衆の威力を示して暴行を加えたがその時同人の右口元を手拳を以て殴打し因つて同人に約二十五日間の加療を要する右下唇切創を蒙らしめて同人を傷害し、
第二、被告人鈴木政太は、前記の如く女子寮食堂において從業員組合側の者が再建同志会側の者を壇上に上らしめてその所信を詰問する等の行爲に出た際、同所において、前記金井深の胸倉を掴み信念を言えと怒鳴つて同人の身体を前後に強く搖り動かす等多衆の威力を示して暴行を加え、
第三、被告人藤田俊次は、前記藥師堂における暴行事件の際、同所において、前記梅村光太郞に対し、その腰部を土足を以て蹴飛ばす等の所爲に出で從業員組合側に属する外数名の者と共に、多衆の威力を示して暴行を加え、
第四、被告人川野義雄は、前記の如く女子寮食堂において再建同志会側の者を壇上に上らしめてこれを詰問する等の行爲に出た際、同所において、前記小屋忠行に対し、その横面等を殴打し、その襟首を掴んで首を締めつけ、又前記宇賀神晃に対し、その胸部を手拳を以て突き、その足部を蹴飛ばす等の所爲に出で從業員組合側に属する外数名の者と共に多衆の威力を示して暴行を加え、
第五、被告人加藤米三郞は、前記藥師堂における暴行事件の際同所附近において、前記小暮淳一に対し手拳を以てその身体を殴打する等の所爲に出で從業員組合側に属する外数名の者と共に多衆の威力を示して暴行を加えたものであつて被告人川野義雄の前記行爲は犯意を継続して、これを行つたものである。
以上の事実中被告人川野義雄の犯意継続の点を除き、その余は、
一、被告人日向和夫、同藤田俊次等の当公判廷における、判示冐頭から、判示のような爭議の経緯によつて、東洋時計株式会社上尾工場從業員組合側の判示示威行進に参加した数百名の一團が、判示のように貨物自動車一台を擁して判示遍照院に押掛けて藥師堂を包囲した点までの事実。並びに被告人日向和夫、同鈴木政太、同藤田俊次、同川野義雄、同加藤米三郞等が、昭和二十一年十一月五、六日の両日に亘つて東洋時計上尾工場從業員組合側が行動した際、右從業員組合員側の應援に赴いたとの事実につき、判示と同趣旨の供述、
一、当審証人小屋忠行の当公判廷における、判示第四の関係部分につき、判示に照應する被害顛末の供述、
一、当審第四回公判調書中、証人梅村光太郞の判示第一及び第三に照應する被害顛末の供述の記載、
一、当審第五回公判調書中証人金井深の判示第二に照應する被害顛末の供述の記載、
一、当審第六回公判調書中証人宇賀神晃の判示第四の関係部分につき、判示に照應する被害顛末の供述の記載、及び証人小暮淳一の判示第五に照應する被害顛末の供述の記載、
一、梅村光太郞に対する昭和二十一年十一日十一日附司法警察官の聽取書(記録二六三丁以下)中同人の関係部分につき、判示に照應する被害顛末の供述の記載、
一、金井深に対する昭和二十一年十一月十三日附司法警察官の聽取書(記録三一一丁以下)及び同日附司法警察官の聽取書(記録三一五丁以下)を通じ、その中の、同人の関係部分につき、判示に照應する被害顛末の供述の記載、
一、小屋忠行に対する昭和二十一年十一月七日附司法警察官の聽取書(記録二三丁以下)及び同年十二月七日附司法警察官の聽取書(記録第四冊一一丁以下)を通じ、その中の、同人の関係部分につき、判示に照應する被害顛末の供述の記載、
一、宇賀神晃に対する昭和二十一年十一月八日附司法警察官の聽取書(記録七四丁以下)及び同年十二月十一日附檢事の聽取書(記録第四冊二二丁以下)を通じ、その中の、同人の、関係部分につき、判示に照應する被害顛末の供述の記載、
一、小暮淳一に対する昭和二十一年十一月七日附司法警察官の聽取書(記録五二丁以下)及び同月三十日附檢事の聽取書(記録七八〇丁以下)を通じ、その中の、同人の関係部分につき、判示に照應する被害顛末の供述の記載、
一、医師福島敬介作成に係る昭和二十一年十一月五日附梅村光太郞に対する診断書(記録二七三丁以下)中、同人の受傷の部位及び傷種につき、判示第一に符合する記載、
を綜合してこれを認め、
被告人川野義雄の犯意継続の点は、同被告人が判示短時間内に、同種の行爲を反覆して行つた事跡によつて、これを認める。被告人等並びに弁護人等は、各被告人等の所爲はいずれも労働組合法第一條第二項に該当する行爲であるから、違法性がないと主張するけれども、前記認定の如き情況の下に前記認定の如き暴行の行爲に出たものである以上、各被告人等の行爲は、いずれも正当なものであるということは出來ないから、右主張は、これを採用しない。
法律に照らすと、被告人日向和夫の判示行爲は、刑法第二百四條に該当し、被告人鈴木政太同藤田俊次同川野義雄同加藤米三郞四名の判示各行爲は、いずれも暴力行爲等処罰に関する法律第一條第一項に該当し、被告人川野義雄の判示所爲は連続犯であるから昭和二十二年法律第百二十四号刑法の一部を改正する法律附則第四項刑法第五十五條(右改正法律による改正前のもの)に從い、これを一罪として処断すべきであるから、被告人日向和夫同鈴木政太の両名に対しては各所定の刑中いずれも懲役刑を選択し被告人藤田俊次同川野義雄同加藤米三郞の三名に対しては、各所定刑中いずれも罰金刑を選択し右懲役刑又は罰金刑の所定刑期又は所定金額の範囲内において右被告人五名をそれぞれ主文第一項記載の通りの刑に処し、被告人藤田俊次同川野義雄同加藤米三郞の三名が右各罰金を完納することが出來ないときは刑法第十八條第一項第四項に從い、いずれも金二十円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用の負担につき各刑事訴訟法第二百三十七條第一項に從い、主文第三項記載の通り負担せしむることとする。
なお、本件公訴事実中、
第一、被告人〓見昭一が、外数名の者と共に昭和二十一年十一月五日判示藥師堂等において梅村光太郞、小山深〓、山本〓、斉藤芳人及び其の他の者に対し、又同月五、六日頃判示女子寮食堂において原田勇七に対し、いずれも多衆の威力を示して暴行を加え、因つて梅村光太郞に対しては傷害を蒙らしめたものである。との点についてはいずれもこれを認むるに足る証拠がなく、即犯罪の証明がないから、刑事訴訟法第三百六十二條に從い、同被告人に対しては無罪の言渡を爲し、
第二、(一)被告人日向和夫が外数名と共に、昭和二十一年十一月五日判示藥師堂において、田中健太郞に対して、多衆の威力を示して暴行を加え、因つて同人に対し傷害を蒙らしめ、又同月五、六日頃判示女子寮食堂において、金井深、山本〓、金刺信次等に対し、いずれも多衆の威力を示して脅迫行爲を爲した、との点、
(二)被告人鈴木政太が外数名の者と共に、昭和二十一年十一月五日判示藥師堂において、田中健太郞、梅村光太郞、山本〓、西本正、星六郞次、齋藤〓一、金井深等に対し、いずれも多衆の威力を示して暴行を加え、因つて田中健太郞、梅村光太郞の両名に対しいずれも傷害を蒙らしめ、同月五、六日頃判示女子寮食堂において、西本正に対し、いずれも多衆の威力を示して脅迫行爲を爲した、との点、
(三)被告人加藤米三郞が外数名の者と共に昭和二十一年十一月五日判示藥師堂等において、田中健太郞、梅村光太郞、西本正、中島淸治等に対し、いずれも多衆の威力を示して暴行を加え、因つて田中健太郞、梅村光太郞の両名に対し、いずれも傷害を蒙らしめた、との点、については、いずれもこれを認むるに足る証拠がなく、即犯罪の証明がないのであるが、以上は、いずれも判示各犯行とそれぞれ連続犯の関係にあるものとして起訴せられたものと認めるから、この点については、いずれも特に主文において無罪の言渡をしない。そこで主文の通り判決する。
(裁判長判事 牛山毅 判事 大沢龍夫 判事補 勝俣利夫)